kazuのブログ

日頃の思いを書いていきます。

(本の感想)後編 僕はやっと認知症のことがわかった 長谷川和夫

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この記事は後編ですので前編は下記からどうぞ

 

kazu0000.hatenablog.com

 

 

■本の感想

5.治る認知症

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現在、認知症を治す薬はありません。しかし、早期診断によって「正常圧水頭症」のように、治る可能性がある認知症では早めに治療を始めることができます。

また、早期診断により、記憶が失われたときに備えて、自分が今後どう生きたいのか、判断がしっかりしているうちに、いろいろと準備をしておくことも出来ます。ショックで知りたくないという方もいるかもしれませんが、やはり早めの診断をおすすめします。

また、上記のガイドラインに記載しているような病気と間違えられることも多くあります。認知症の診断は難しく、うつ病と間違われたり、せん妄などと間違えられることもあります。高齢者はたくさんの薬を処方されがちですから、薬の副作用によって認知症に似た症状が引き起こされることもありえます。間違った診断をされて治療が違った方向に進まないためにも、早めに専門医の診断を受けることをおすすめします。

 

6.診断の流れ

認知症を担当する科は、精神科、脳神経外科などがあり「物忘れ外来」「メモリークリニック」などと謳っているところもあります。診断の流れが下記のとおりです。f:id:kazu0000:20210313142500p:plain

問診→心理検査(MMSEや長谷川式スケールなど)→臨床検査(CTやMRIなど)→血液検査など、これらの検査から総合的に判断し、診断結果が告知されます。

認知症になる危険因子としてもっとも大きいものが、年をとることです。年齢が上がるにつれて認知症の有病率がぐんと高くなります。70代前半では3%台だったのが80代後半になると40%を超え、90代以上では60%を超えます。

 

7.認知症になってわかったこと

先生が認知症になってわかったことに、認知症は「固定されたものではない」ということが記載されている。先生の場合は朝が調子がよく夕方になると疲れてきて自分がどこにいるのか、何をしているのかが、わからなくなっていくとおっしゃっています。

先生自身も認知症になったらその症状は不変的であると思っていたそうで、これほどよくなたり、悪くなったり、グラデーションがあるとは考えてもいなかったそうです。

また、認知症の人と接するときに心に留めておいて欲しいこととして「時間を差し上げる」ということ上げています。まず、相手のいうことを聴いてほしい。「こうしましょうね」「こうしたらいかがですか?」などと、自分からどんどん話しを進めてしまう人がいますが、認知症の人は戸惑い、混乱して、自分の思ったことをいえなくなってしまいます。その人が話をするまで待って注意深く聴いて欲しい、きちんと待って、じっくりと向き合ってもらえると安心するとのことです。

認知症の人はそれぞれ別の人で当たり前に全員が違います。みんな違ってみんな尊い存在であることを忘れないでほしいと思います。そこに尊厳が生まれるのです。

 

8.騙さない

認知症の方に接するときに心得として「騙さない」ということを挙げています。先生の現役のとき、相談されたことのひとつに、認知症の診断を受けさせたいが本人に対してどう言えばよいのか?というものがありました。嘘をついて、騙して受診させるケースもあるようですが、先生はそのようなことに反対をしています。「相手は認知症だから大丈夫だろう」と、認知症のことをよく知らない人は思いがちですが、そうではありません。何となくおかしいということや、尊厳をもって扱われていないことは、認知症になってからもわかります。先生は本書で何度も「認知症だからといって色眼鏡でみないで、普通に接して欲しい」といっています。

 

9.薬の副作用

認知症の薬に関して、症状を緩和し、抑制する薬はできましたが、発症前の状態に戻す治療薬はまだありません。

脳血管性認知症を除くと、アルツハイマー認知症を代表とする認知症の大部分は、「アミロイドβ」や「タウ」などと呼ばれる特定のタンパク質が脳内に異常に蓄積し、脳神経が死滅することで発症すると見られている。そのため、この特定のタンパク質が脳に蓄積しないようにする薬剤の開発が行われ、有望な薬もあったが、効果が明らかにできず、これまでのところは開発中止が相次いでいる。

 

10.美しいもの

先生の1日は、日めくりカレンダーをめくることから始まるそうです。それから朝食、そのあとは理容室に行ったり、週に1度のデイサービスにも行くほか、リハビリの人が家に来てくいれたり、自分でマッサージを受けに行ったりすることもあるそうです。

午前中はいいけども午後になると疲れて、もやもやしてくるそうです。買い物のお金を払ったのに忘れてしまったり、意図していないことを喋って、後でしまったと思ったり、老いと認知症の両方で正直、情けなさやもどかしさを感じることも沢山あるそうです。

しかし、認知症になっても、嬉しい、悲しいといった喜怒哀楽の感情は最後まで残ると言われています。実際に認知症になってみて、その通りだと思ったそうです。たとえ症状が進んでも、できるだけ美しいものを観たり、聞いたり、味わったりして過ごしたいとおっしゃっています。

 

11.最後に

長谷川先生の印象に残った言葉に

認知症の本質は、暮らしの障害なんだよ」

という言葉があります。まさにその通りだと思います。

また、薬の副作用についても、認知症薬の治験統括医師まで勤めた人が、そのような見解を持っていることに驚きました。認知症の第一人者が認知症になって感じることをとても丁寧に解説してくれている一冊になっていますので、認知症になった人やその家族、認知症に関わる全ての人に読んでもらいたい一冊になっています。

 

(本の感想)前編 僕はやっと認知症のことがわかった 長谷川和夫

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■著者について
●長谷川 和夫:1929年愛知県生まれ。53年、東京慈恵会医科大学卒業。74年、「長谷川式簡易知能評価スケール」を公表(改訂版は91年公表)。89年、日本で初の国際老年精神医学会を開催。2004年、「痴呆」から「認知症」に用語を変更した厚生労働省の検討会の委員。「パーソン・センタード・ケア」を普及し、ケアの第一人者としても知られる。現在、認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医大名誉教授。認知症を描いた絵本『だいじょうぶだよ――ぼくのおばあちゃん――』(ぱーそん書房)の作者でもある。

●猪熊 律子:読売新聞東京本社編集委員。1985年4月、読売新聞社入社。2014年9月、社会保障部長、17年9月、編集委員。専門は社会保障。98~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞社海外留学生としてアメリカに留学。スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「John S. Knight Journalism Fellowships at Stanford」修了。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。著書に、『#社会保障、はじめました。』(SCICUS)、『社会保障のグランドデザイン』(中央法規出版)などがある。

 

■本の概要

「長谷川式簡易知能評価スケール」という言葉は介護・医療従事者の方や認知症家族を抱える方なら一度は耳にしたことがあるでしょう。それほどに有名な認知症の評価指針を作った著者自身が認知症になり自らが認知症となったことでわかった事を専門知識も交えて書かれています。認知症を学びたい人もまた、認知症になった方も是非、読んでいただきたい一冊となっています。

 

■本の感想

1.初めに

皆さんは「長谷川式簡易知能評価スケール」と言う言葉を聞いたことがあるでしょうか?「今日は何年の何月何日ですか?」「100から7を引いて下さい」等の検査をして認知症かどうか「診断の物差し」として日本中で広く使われている認知機能検査が長谷川式スケールでこれを開発したのが著者の長谷川和夫さんです。

そんな長谷川さん自身が認知症になりました。認知症であると自覚して発表したのが2017年7月、88歳の時です。認知症は、言語や知覚に関する脳の機能低下が成人になってから起こり、日常的に生活に支障をきたしている状態をいいます。

ちなみに厚生労働省によると「団塊の世代」が全員75歳以上となる2025年には約700万人が認知症になると推計されています。「認知症は誰もが向き合うものですよ、むやみに怖がることはありませんよ」ということが伝えたくて思い切って公表したそうです。

著者が実際に認知症になってみて実感したことは、認知症は一旦なったら固定したもののように思われがちですが、そうではないということです。例えば著者の場合は、朝起きた時は調子が良いけれど、だんだん疲れてきて混乱がひどくなる。でも一晩寝るとスッキリして、またフレッシュな新しい自分が蘇ります。だから「一度なったらおしまい」とか「何もわからない人」などど思わないでほしい、特別扱いしないで頂きたいとおっしゃています。

 

1、認知症になってショックだったか?

この質問はよく聞かれる質問だそうです。

この質問に対して以前に体験した話を書いています。ある日、認知症と診断された男性が「セカンドオピニオン(別の医師の意見)」として尋ねてきたそうです。その男性は「先生、聞きたいことがあるのですが、質問していいですか?」とおっしゃりました。「もちろんです。どうぞ」と答えると「他の誰かじゃなくてなぜ自分がならないといけなかったのですか?」と聞いてきたのです。皆さんならどう答えますか?先生は答えられなかったそうです。何か話すよりも一緒に「悩みますよ」と伝えたかったので、その時にできたのは、その人の手の上に自分の手を重ねて「そうですねえ」といって握ることくらいでした。その男性は会社で重要な職についている方でしたので、その方からすれば「どうして私が何も悪いことをしていないのに「社会でそれなりの仕事をしてきた私がこの後に及んでなぜ?」という気持ちが強かったのでしょう。当時は認知症への理解が今よりも進んでいませんでしたから、相当ショックだったのでしょう。

一方で著者はどうだったのかというと「認知症になったてしょうがない」「年をとったのだから。長生きをすれば誰でもなるものだから、それは当たり前のこと」と思ったそうです。ショックでなかったかというと嘘になるけれど、なったものは仕方がないというのが正直な感想であると述べています。もちろん、もどかしい気持ちはあるそうです。今日が何月何日で、何曜日かもわからなくなるのですから当然です。認知症でいちばん多いアルツハイマー認知症は、一般的に、まず時間の検討がつかなくなり、次に場所の検討がつかなくなり、最後に人の顔がわからなくなると言われています。

 

2、晩節期の認知症

最初は自分ではアルツハイマー認知症ではないかと疑っていたようですが、専門病院で詳しい検査をした所、「嗜銀顆粒性(シギンカリュウセイ)認知症」であると診断がされたそうです。

※嗜銀顆粒性(シギンカリュウセイ)認知症は、脳をつかさどる部分などに嗜銀顆粒性という異常なタンパク質がたまることから、その名がついた。記憶障害以外の認知症機能の低下はあまり目立たず、怒りっぽくなる、頑固になるほか、不安や焦燥、躁鬱などの症状が見られる。確定診断には病理学的検査が必要であり、臨床診断は難しいとされる。

著者は80歳を過ぎての認知症を「晩成型の認知症」と呼んでいるそうです。これからこの「晩成型認知症」になる方が増えてきます。だから絶対に人ごとではないと思って認知症のことを知っておくことが大切だとおっしゃっています。

 

3、認知症の定義

認知症とは何かについて記載していきます。認知症とは「成年期以降に、記憶や言語、知覚、思考などに関する脳の機能の低下が起こり、日常生活に支障をきたすようになった状態」といわれています。つまり、認知機能に障害を負ってきた生まれつきでも、正常な老化の一部でもないということです。いったん正常に発達した神経細胞が、外傷や感染症、血管障害などのさまざまな病気や原因によって損なわれ、障害を受けた時に起こるものです。

認知症の特徴としては、次のようなことが上げられます。まずは、脳の器質的な障害であり、認知機能が低下していること。ここでいう「器質的な障害」とは、脳の神経細胞のつながりが働かなくなってしまうことを指します。脳の神経細胞は、複雑で精巧なネットワークを構築しているので、それが阻害されると認知機能は阻害されます。意識障害が無いことも特徴として上げられます。つまり、話しかけても返事がなかったり、意識が混濁していたりする場合とは区別されるということです。「せん妄」と呼ばれる軽い意識障害があると、物忘れと似たような症状を引き起こすことがあります。また、脱水症状や感染症、薬の過剰投与によっても、意識障害は起こりやすいので注意が必要です。認知機能の低下と共に、日常生活にも支障が生じていることも重要な特徴としてあげられます。日常生活に支障がある期間は一時的ではなく、継続しています。さらに脳の器質的な障害によって、それが引き金となり、感情や行動の面などでさまざまな変化が見られるという特徴があります。たとえば、ご飯を食べたのに、器質的な障害がある記憶障害によってそれを覚えることができず「ご飯をたべさせろ」と騒いだり、怒って暴力を振るうのは、器質的な障害に伴って起こる変化と言えます。このような、付随して起こる怒りや暴力、疑いなどの感情行動は「BPSD」と呼ばれています。

 

4、認知症の種類と特徴

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アルツハイマー認知症

認知症というとアルツハイマー認知症を思い浮かべる人が多いと思います。アルツハイマー認知症はアロイス・アルツハイマー(1864から1915年)というドイツの精神科医が最初に症例を発表したために、その名をとって呼ばれています。

アルツハイマー認知症では、脳の神経細胞の外側にアミロイドβというタンパク質が付着した、老人斑と呼ばれるシミのような異常構造が多く見られます。老人斑ができたあとで、神経細胞の中に異常な線維が蓄積する神経原線変化と呼ばれる病理変化が見られ、神経細胞が死んでいきます。アミロイドβの蓄積が始まってから10年から15年以上かけて認知症はゆっくり進行していきます。だたし、アミロイドβが蓄積しても、認知症が発症しないこともあります。

アルツハイマー認知症になると、物忘れなどの記憶障害や、時間や場所などがわからなくなる見当織障害などさまざまな認知障害が起こり、生活に支障をきたします。時間をかけて徐々に進行し、重度になると自分でものを食べることや着替え、意思疎通などができなくなります。自分で座ることも不可能になり、寝たきりになり、最終的には意識が低下し、昏睡状態となって死を迎えます。今では認知症の6割は、アルツハイマー認知症といわれています。

 

②脳血管性認知症

以前、日本で多かったのは脳血管性の認知症でした。脳血管性認知症とは、脳梗塞脳出血など、脳の血管性の障害によって起こる認知症です。脳梗塞は脳の血管が詰まって一部に血液が流れなくなり、その部分の脳が動かなくなってしまう病気です。脳出血は脳の血管が破れて出血し、その部分の脳細胞が圧迫されて起こります。脳の血管が詰まったり出血すると、脳の細胞に酸素や栄養が送られなくなるため、細胞が壊れてしまい、本来、細胞が担っていた機能を失うことによって認知症が起こるのです。血管の病気を引き起こす主な原因は動脈硬化です。動脈硬化の危険因子として、高血圧、糖尿病、心疾患、脂質異常症、喫煙などがあります。

症状としては、記憶障害の他に歩行障害などが見られることが多くあります。排尿障害が一緒に起こることもあります。「感情失禁」といって、感情をコントロールできず、ちょっとしたことで泣いたり、怒ったりすることもあります。症状の現れ方が特徴的で、突然、症状が現れたり、落ち着いたと思ったら、急に悪化したりするとこもあります。女性よりも男性の方が多く症状しているといわれます。

 

レビー小体型認知症

 レビー小体とは、神経細胞に出来る特殊なタンパク質が大脳皮質や脳幹にたくさん集まり、神経細胞が壊されてしまうため、認知症の症状が起こるとされています。大脳皮質とは、何かを考えるときに中枢的な役割を担っている場所です。脳幹は、呼吸や血液なの循環などの人が生きるために欠かせない役割を担っています。レビー小体はパーキンソン病でも見られるため、似た症状が見られます。手が震える、動作が遅くなる、筋肉がこわばる、体のバランスが取りにくくなるなどです。そのため転倒しやすくなります。この認知症の特色として一番に上げられるのが「幻視」です。初期の段階では記憶障害よりも幻視の症状が見られるため、認知症と思わない方も多いようです。この認知症の方ははっきりとした幻視をみます。周囲には見えていなくとも本人には見えているのですからきちんと受け止めることが大切です。ちなみにレビー小体型認知症を明らかにしたのは日本の精神科医です。小坂憲司先生といいます。1976年に世界中に知られるようになりました。

 

④前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮し、血流が低下することでさまざまな症状が引き起こされる認知症です。

前頭葉は思考や感情の表現、判断をコントロールするとされ、人格や理性的な行動、社会性に大きく関係します。側頭葉は、言語の理解、聴覚、味覚の他、記憶や感情をつかさどっています。どちらも脳のたいへん重要な働きを担っており、昨日の低下は大きな影響を及ぼします。

この認知症の特徴は、人格の変化や常識から考えると疑問に思われる行動などです。実例として、公務員だった方が万引きをしてしまい、なぜそんなことをしたかを調べる過程で、その方が前頭側頭型認知症だとわかったことがあります。社会性が低下して問題が生じることが多いため、人々がこの認知症を理解してくれないと、本人も家族も非常に苦しむことになります。抑制が利かなくなる。同じことを繰り返すなどのほか、他者への共感ができなくなったり、感情移入ができるなったりするなど、感情が鈍くなどといった症状も伝えられています。65歳未満の方に比較的多いとされています。

 

ほかにも、認知症の種類や、認知症を引き起こす病気としては多くのものがあります。

今回は前編としてここまでの記載とします。

 介護・認知症関連の過去の記事についてもリンクを貼っておきます。

 

kazu0000.hatenablog.com

 

 

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(本の感想)後編 介護再編 武内和久 藤田英明

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この記事は後編になります。

前編は書きを御覧ください。

 

kazu0000.hatenablog.com

 7.2025年までに80万人確保という高すぎるハードル

つまり、現時点から70万人を増やさないといけない、推計当時のペースで行けば215万人までには増加するだろうと見込まれており、それでも38万人たりないということはすでに述べたとおりです。また、介護人材をめぐっては「とりあえず誰でもいいから人を集めたい」という議論と「質を担保されないと良いケアはできないのだ」という2つの議論が繰り返されています。この調子でいくと、思い切った打ち手なしには70万人を新しく雇い入れるということは出来ないのではないかと考えます。

また、国内でかき集めても到底見込みが立たないとの事で外国人が入ってくれば問題ないだろうという議論もあります。しかし、コミニュケーション能力が必要な介護の仕事は、工場ラインで回したり、コンビニでレジ打ちをしたり、ラーメン屋で注文を取ったりという仕事とはわけが違うということも理解しておかなければなりません。特に認知症の人の介護をする場合はコミニュケーションが欠かせないというより、一般の日本人よりも一段上のコミニュケーション能力が求められますから、介護の仕事は外国人にとってパードルが低くないのです。

一口に介護と言ってもサービスに濃淡があります。重度な障害があってほとんど医療に近い世界から、一緒に買い物に行ったり、調理をしたりといった生活支援まで非常に幅の広いものがあります。デイサービスでリクリエーションをするのと、特養でターミナルケア、見取りをするのでは全く別の仕事といって良いでしょう。そうであるのに介護という仕事を一括りに論じると実態が見えなくなります。

ここでイメージを持ってもらうため、大まかに主なサービス利用者の特徴を紹介してみます。

 

特別養護老人ホーム

要介護度  3ー5

年齢層   80歳以上

所得層   低所得者

医療依存度 軽〜中

 

②有料老人ホーム

要介護度  自立から5

年齢層   65歳以上

所得層   中〜高所得層

医療依存度 なし〜高

 

8.介護は奥深い難しい仕事

介護の仕事は基本的にコミニュケーション能力が絶対に必要な仕事です.認知症になった人や、脳梗塞で意思疎通が出来なくなった人など、また、それを支えている家族だったり、周囲の人だったり、精神的に負担を負っている人たちとのコミニュケーションをいかにとれるかによって、その成果が大きく変わってくる仕事です。介護は多種多様な価値観を背負っている人たちに対して、どのパターンにも適応しながら、ケアをデザインしていく高度に“知的”な作業です。その適応力こそが、単なる家族会ごとの大きな違いなのです。利用者の経歴や希望を網羅的に聞いていくと、その人の人物像が大体わかってきます。すると、その人に対してどういうケアが良いかの仮説が立てられます。そしてその結果どうがったかという振り返りを行いPDCAサイクルを回していくのです。これができる人が現場にいる必要があります。しかし、このPDCAを回すという発想が不十分な現場が多いのも事実です。介護の専門学校では「非審判的な態度」について学びます。要は介護をするとき、「あなたが良いと思うか悪いと思うかは関係ない」ということ。利用者家族の話を、それが良い・悪いという価値判断は別にして聞きなさいということです。そこから推測をして仮説を立て、プロファイリングして、その人物像を明らかにしていきなさいと習うのですが、大概の人はこれが出来ていません。自分のこうあるべきを持ち込んでしまうのです。現場経験が長い人ほどにこの傾向が強まります。こうなると、介護職の間で齟齬が生まれて「あなたの考えは間違っている」「あなたの方が間違っている」という、どこまでいっても平行線を辿るしかない議論に終始して人間関係が悪化します。介護職は実は高度な知性・感性と対人能力が求められるのです。エモーショナルな仕事のようで、本当は科学的であり、かつコミニュケーション能力が高くなければできないという、非常にハイレベルで知的な仕事なのが介護職であるといえます。医療の場合は、骨折であろうが、ガンであろうが、ある程度定型化された処置が行なえます。しかし、介護は特に相手ごとに配慮しなければならず、知性と感性、左脳と右脳が必要とされる仕事なのです。

 

9.介護はクリエイティブな仕事でもある

 著者の経営する介護施設の事例になります。もともと法人経営をしていた高齢男性のAさんは認知症になって、トイレも失敗してしまうし、奥さんに暴力を振るうこともありました。いろいろと試してうまくいったのは、その人の”尊厳”に訴えかけることでした。Aさんには、施設の名称が入った名刺を持ってもらい、営業先に一緒に回ってもらうことにしたのです。名刺には「最高顧問」と肩書を入れて「顧問、今日もよろしく御願い致します。」といってデイサービスの営業部門と一緒に営業先に同行するのです。すると本人的にも朝になると「出勤しなきゃいけない」という気になってお迎えの車を背広を着て待つようになりました。Aさんは認知症で3と4をいったりきたりしていたのですが、その後は要介護3で維持して症状も落ち着いてきました。失禁もなくなり、奥さんへの暴力もなくなりました。このように考えていくと施設に100人入居者がいたら、100人違うサービスをしなければなりません。ですから介護職は非常にクリエイティブな仕事なのだといえます。

 

10.介護職の質の良し悪しの見分ける困難さ

介護においても最も困難を極めるのが、介護では生活全般を見守っているため、本人の幸せな状態を追及していく点です。その点において、その「幸せな状態」がそれぞれ違うことが介護を一層難しいものにしています。ある人にとってはいいことも、ある人にとっては迷惑だったり、お節介に感じたりすることはよくあります。うな丼を食べたい人もいれば、ジャムパンでもいいという人もいます。同じ位の関わりをしても、ある人は「相手にしてくれなくて寂しい」と感じるでしょうし、ある人は「うっとうしい、少し放っておいて欲しい」と感じるでしょう。それにその人のすべて心地いい状態にするのが健康にいいかというと、それも違います。「ジャムパンだけ食べていけば幸せ」という人に毎食与えれば糖尿病にまってしまいます。「外出するのが億劫だから、毎日テレビだけをみて生活をしたい」という人の言う通りに生活をさせているとあっという間に寝たきりになってしまいます。

入居者の要望を聞くことは大事だけども、全てを聞いてはいけない。その判断をどのようにするかは専門的な知識が必要です。介護職にとって「能力が高い」とはどんなことを指すのか。これは非常に難しい問題です。逆にいえば評価のしにくさは、介護職の仕事の奥深さや幅広さを示しているともいえます。介護職にはコミニュケーションであったり、目配り、気配り、声掛けであったりとさまざまな要素があるので、それをどうやって評価するのか、例えば数字化するのかまったく確率されていません。そういう介護職の人々は、往々にして、精神論に走ってしまう傾向があるように思われます。よくあるのは、「きらきら介護」「ワクワク介護」「ありがとうと言われる仕事」というフレーズです。要するに「自分たちの仕事は感謝されることが報酬です。だから給与は高くなくて構いません」 といっているようなものです。向上心をもって介護職界の中で自分を高めようというより、現場に寄り添っているようなふりをして、より大きな責任を追わないでいることを選択しているのです。

介護福祉士の養成施設や研修制度など、様々な形で学ぶシステムはあるのですが、そうして学んだことと現場でのギャップが大きすぎて生かせない面があります。このギャップから働いてから学ぼうという気力が湧かなくなります。「学校でこういうことを学んだんですけど」と先輩に意見すると「若いのに小賢しいことを言うな」「うちはこういうやり方なのよ」と一括されて、心が折れてしまうということはよくあります。介護職で働く人は、専門性と高めていこうという人と、福祉なのだから安定してずっと給与を貰えるから働いているのだという人に分かれます。両者はまったく考え方が違うので、現実で衝突することになるのです。

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職場を辞めた理由は、労働環境がそれなりに上位を占めているのですが、事業者のほうに理由がありそうな項目も入ってきています。「うちは利益を上げることが大前提」という事業所もあれば、「うちはとにかく利用者のためになることを極めるのだ」という施設もあります。いろんなパターンがありますが 事前に説明していなかったり、うまく浸透されていなかったりします。実際に採用するときも、何気ないパンフレットをポイっと渡したりするだけだったりします。人の採用の仕方を知らないだけなのか危機感がなさすぎるのか、どちらなのかだと思います。一方で、労働者側が入職する時に法人や事業者の理念や方針に共感下というのはほとんどありません。入るとき全然チェックしておらず、入ってみるとすごく不満に思ったという人も多いように思われます。どちらの努力も欠けているから、不幸な結婚のようになってしまっているのでしょう。

 

8.テクノロジーはどこまで代替可能か?

介護にテクノロジーを導入するとき、業界内部と外部の味方にスレがあります。外部には「介護は工場労働のようなもの」という味方を持っている人がまだいます。その根底には結局、簡単な仕事だとうという考えがあります。しかし、再三述べているように決して簡単な肉体労働ではありません。内部からのズレとしては、何故かテクノロジーを欲しがらない事業者が多いことが上げられます。欲しい場合の理由は、はっきりしていて、ひとつは人手不足とか、切実な業務の厳しさをそれによって緩和したいという場合です。もうひとつは、何となくたまっているイノベーションへの渇望、革新への願望があります。新しい要望があります。新しいムーブメントを起こしたいという思いが高じて、という場合もあると思います。そういう意味で、内部と外部でテクノロジーを巡る思考が微妙に交錯していて、まだ1つの線に結ばれていないのです。

しかし、今後はおそらく、必要性にかられて、テクノロジーはどんどん現場に入ってくるでしょう。介護職はそれでも最後まで残り続ける仕事です。大事なことは何のためにテクノロジーを使うかです。それには省人化・省力化という大きな目的があります。働く人の心身の負担を減らして、掃除と排泄ではどちらが優先かというと、当然ながら人の尊厳のほうが重要です。今まさに試行錯誤にとば口に入っているということが言えます。

 

9.介護は100兆円産業になる

介護保険制度からの介護給付費は現在約10兆円ですが、これが10年後の2028年はその倍の20兆円になると推計されます。20兆円は現在の電力産業と同規模です。この20兆円というのはあくまで介護給付費だけの金額なので、介護を取り巻く産業である福祉用具や高齢者向け宅食、衣料品などは含まれていません。これらの周辺産業を含めると2025年時点のマーケット規模は約100兆円と言われています。

 

10.最後に

本書は介護を経営者の目線でさまざまなデータから今と今後を示しています。介護は日本の大きな課題であり、同時に産業としては非常に重要なものです。今回紹介したこと以外にも今の事業者への問いかけや若者への提言なども記載されていますので皆さん是非、読んでみて下さい。読みやすく一気読みしてしまいました。

 

 

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 その他にも介護の記事も書いています。

 

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(本の感想)前編 介護再編 武内和久 藤田英明

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■著者の紹介

武内和久 たけうち・かずひさ
1971年生まれ、福岡出身。東京大学法学部卒業後、厚生省(現厚生労働省)に入省。在英国日本国大使館一等書記官、厚生労働省大臣官房、厚生労働省医政局等を経て、福祉人材確保対策室長を最後に退官。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社アドバイザー(厚生労働省参与、東京大学非常勤講師等)等を歴任。共著書に『投資型医療』(2017年、小社刊)、『公平・無料・国営を貫く英国の医療改革』(2009年、集英社新書)、『2025年、高齢者が難民になる日』(2016年、日経プレミアム新書)など。

藤田英明 ふじた・ひであき
株式会社日本介護福祉グループ創業者。株式会社CARE PETS代表取締役(犬や猫の訪問介護・看護やペットシッターサービス)、株式会社けあらぶ代表取締役、医療法人杏林会八木病院理事、株式会社Caihome取締役(介護と学童保育の融合)、株式会社トリプルダブリュー顧問(排泄予知IoTの「Dfree」を開発)。明治学院大学社会学社会福祉学科卒業(専門は精神障害者支援)後、社会福祉法人特別養護老人ホームに就職し介護職員兼生活相談員として着任。その後夜間対応型デイサービスで起業し、株式会社日本介護福祉グループを設立、全国850事業所を開設。内閣府規制改革会議に参画(介護・保育ワーキンググループ)。著書に『社会保障大国日本』(幻冬舎)がある。

 

■本書の概要

厚労省官僚と介護事業所経営者が介護の知られざる現状を生生しく知られざる現状を明らかにし、対策を提言します。介護士の不足、あなたの親とあなたは介護を受けれるのか?介護の現場は外国人労働者ばかりになる?虐待されない介護施設は?介護仰臥位のIT化とは?

 

■本の感想

 1.介護職の不足に対応出来なければ日本は衰退する

介護業界全体を見ると、人手不足は深刻な状況にあります。財団法人「介護労働安定センター」が公表している「2017年度介護労働実態調査」によると「従業員が不足している」と答えた介護事業所は66.6%で、4年連続で不足感が増加しています。不足理由は「採用が困難」が88.5%で「離職率が高い」が18.4%となっています。

その一方で、現在、180万人もの介護労働者が現場で働いていることも事実です。すでにあらゆる産業の中で最も従事者数が多い職種のひとつになっており、今後も確実に伸びていきます。

厚生労働省によると、2025年には253万人の介護労働者が必要と試算されており、1年に10万人のペースで増やしていかないといけません。

2000年に介護保険制度が始まった時は要介護者は200万人でしたが、現在は660万人になっています。このニーズの急増に担い手が追いついていないのです。今の介護職員の増員ペースで行けば2025年には約38万人も不足すると予測されています。

 

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2.高級有料法人ホームだから安全・安心というのは神話

介護施設には様々な施設があり、そのクオリティはピンからキリまであります。たとえば、入居金に数千万払う有料法人ホームもあれば、毎月9万円程の費用で入居できる住宅型有料老人ホームまで、その価格帯は様々です。

では、一般の老人ホームと高級老人ホームでそこで働く職員の質には差があるのか?というと「そうではない」というのが現実です。その理由は、高級老人ホームも安い老人ホームもそこで働く「介護職の給与はほぼ同じ」 であり、どの施設も人材不足です。介護職の給与は老人ホーム運営事業者に介護報酬として支払われた中から支払れます。そのため、支払われる金額は結果的に同水準になって来てしまうのです。結局、建物が高価であろうが安価であろうが、コスト回収期間は変わらないため、従業員にさける賃金の総額は同じような水準になり、人件費も同じになるざる得ないのです。

 

3.100%虐待は起きないと言える介護施設は100%存在しない

どんな介護施設でも虐待が起こる可能性があります。施設の組織編成に問題があることも背景のひとつです。現場の状況として各施設で提供される介護の質はその施設長に委ねられている現状です。介護事業者による事業拡大が続いている中で、若く経験の浅い人が施設長を任される事が増えてきている日本の介護業界において、様々な問題が起きる可能性があります。たとえば

①マネジメント経験がない人が施設長に就任する

②施設長の役割が分からない

③スタッフから信頼されていない

④現場のマネジメントができない

⑤上司から数字を求められ、部下からは働きやすさを求められる

もともとは介護保険制度がスタートする前は「介護は福祉である」という概念が強い分野でした。それが作用した結果「お上意識」が非常に強い社会福祉法人が多く存在し、結果として、経営を改善するとか人の能力を引き出す点で意識が低くなっている法人も散見されます。これがリアルな社会福祉法人の現状です。

 

4.介護の目的には自立と尊厳

そもそも介護の目的は何なのでしょうか?

介護という言葉は介助と看護の合成語として生まれました。その目的としては一般的にには「自立の支援」と「尊厳の自立」の2つが主な柱です。この2つは介護保険法にも明記されています。ところが、この「自立の支援」と「尊厳の維持」は人によって捉えられ方が違います。抽象的、哲学的な概念であるため無理もありません。何を持って自立とするか?リハビリやトレーニングをして、自分で歩けるようになるのは自立と言えますが、では、認知症の高齢者にとって自立とは何なのか?歳とともに衰えていくさまざまな身体的機能を半ば強制的に維持向上させ、自立を向上せ、自立を強要することが意味のあることなのかは十分に考えなければなりません。もちろん、自分のことは自分で出来ることが自立の基本ではありますが、それをどう捉えるのかは一概には定義できません。自立と言っても身体ではなく、精神的な側面や、生活面も考慮する必要があいります。また、そもそも人間にとって尊厳とは何を指すのでしょうか?その人のプライドを維持し、アイデンティティを担保し、その人らしい生き方が出来るということかもしれません。しかし、それが具体的にどういう状態を指すのかというと、個々の人の人生観や死生観の問題になってきます。私達は常にこの問題について考え続け、追求し続けなければ、問題の本質に迫ることはできません。

 

 5.介護業者の”黒字倒産”が常態化する

 介護業界の人材不足が深刻の度合いを深めていることは、さまざまな現象から見て取れます。特に首都圏近郊でこの傾向は顕著です。実は高齢者はもともと人工集積地でない地方都市から始まっていて、そうした地域では、今はピークを過ぎて高齢化率が下がる局面に入ってきています。東北や山陰地方などがそうです。東京での介護職の有効求人倍率は3倍ですが、夜勤有りの介護職募集となると10倍以上に跳ね上がります。経営的に黒字でも倒産するし、運良く人が集まっても経済的に苦しいというのが、大都市の介護事業者の現状です。

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6.達成感が得られにくい介護の仕事

医療の場合は、治療して治ったかどうか、私傷病の回復の具合が目に見えてわかります。ところが介護の場合は心身の状態が回復することはまれで、多くは「維持」です。
 身体的にはまだ見えやすいのですが見えやすいですが、精神的にもとても分かりにくいのです。目に見えにくいものを評価していくという物差しや方法論が、まだ介護の分野にはありません。たとえば、介護保険対象のうち、要介護1,2、3程度の軽度の方や、認知症を患っている人の場合では対応が違います。身体的には介助を必要としなくても、精神的な支援が必要ですが、そこが何をもって改善されたかと判断すでばいいかもわかりません。逆に要介護4,5の人のように、改善が見込めない人のケアをしていった結果、何が良かったのかを検証することも大変難しいことです。このことが介護職の精神的に負担をかけるに違いありません。達成感を短い時間軸で得ることが出来にくい仕事なのです。

その上、世代間ギャップでモチベーションが得にくいという問題もあります。現在の高齢者の人たちは物心ついたころからすでに食料の心配をすることがなく、時代的にも高度成長期の時期を働き盛りとして謳歌してきたので、非常にプライドが高い面があります。権利意識が強く、介護職への要求も高くなりがちです。そうなると、介護職の人達からすると「プライドが高く扱いづらい」「わがまま」と感じてしまうのです。そうした理由もあって、介護職として働きたいと本気で考えている人は、高齢者施設から障害者施設のほうに流れています。介護施設とは比べ障害者施設では求人の10倍の応募がるということもザラです。障害者施設で働いていると「大変な仕事をしている」「素晴らしい仕事をしている」とゆう理解を周囲から得やすいという面があるのも事実です。介護施設では、高齢者から下に見られて、使われていると感じてしまうのに対して、障害者や障害児をケアをするときには自分がケアを施すという一種の満足感がえられるというような、潜在的な意識が影響しているといったこともあるでしょう。そうした考え方の是非は別として、それがひとつの現実です。

 

 今回は前編として後編に続きます。

 

 

(本の感想)抗認知症薬の不都合な真実 長尾 和宏さん 東田 勉さん

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■著者について

長尾和宏(ながおかずひろ)
医療法人社団裕和会理事長・長尾クリニック院長。医学博士。1984年、東京医科大学卒業後、大阪大学第二内科入局。95年、兵庫県尼崎市で開業。複数医師による外来診療と在宅医療に従事。日本慢性期医療協会理事、日本ホスピス在宅ケア研究会理事、日本尊厳死協会副理事長、エンドオブライフ・ケア協会理事、抗認知症薬の適量処方を実現する会代表理事関西国際大学客員教授、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定医など。
著書に『平穏死・10の条件』(ブックマン社)、『その医者のかかり方は損です』(青春出版社)、『認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいるって本当ですか?』(現代書林、共著)など多数。


東田 勉(ひがしだつとむ)
1952年、鹿児島県生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務後、フリーライターとなる。2005年から07年まで、介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当。医療・福祉・介護分野の取材や執筆多数。著書に『認知症の「真実」』『親の介護をする前に読む本』(いずれも講談社)がある。

 

■本書の概要

認知症の薬は本当に効いているのか?認知症は治るのか?

昔はボケといわれ今は認知症という呼び方になっています。私も過去に認知症の本の感想を書いていますが 認知症とは「認知機能の変化に伴って暮らしの上で支障がある状態」のことです つまり、症状ではないのでそのことは本人にしかわからず、想像するだけで本人の苦しみは計り知れません。もちろん認知症にはなりたくないと皆が思い認知症だと診断されれば少しでも進行を遅らせたいと願い、または直したいと思うのは同然です。本書はそんな認知症の薬についての真実が治験のデータのエビデンスによって記載されています。専門的な用語も解説されておりページ数も少ないので読みやすい本になっています。

 

kazu0000.hatenablog.com

 

■本の感想

1.2018年「フランスのニュース」の衝撃

2018年6月1日フランス厚生省は、以下のアルツハイマー認知症の治療薬を同年の8月1日から保険適用から外すというプレイリリースを発表しました。

・ドネペジル(日本の商品名アリセプト

・ガランタミン(同レミニール)

・リバスチグミン(同イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)

・メマンチン(同メマリー)

フランスでは2005年からHAS(高等保健機関)という公式組織が、医療保険の適用される薬や医療技術などの臨床効果を評価しています。HASはこれらのアルツハイマー認知症薬を「保険でまかなう必要なし」と評価しました。「これらの薬を使うことで症状の緩和、死亡率の暖和、死亡率の低下といった良い結果が得られる証拠は不十分であり一方有害事象の多さは無視できない」という評価でフランスは浮いた費用は保険費をケアに回すといっています。

 

2.日本の抗認知症薬は、このままでよいのか?

一方日本ではフランスと大きく異なる抗認知症薬偏重の医療が行われています。問題のひとつは、抗認知症薬の増量規定です。1999年11月に発売されたアリセプトは、3㎎から開始して1から2週間後に5㎎にするという増量規定を設けました。2011年に相次いで発売されたレミニュール、リバスチグミンのパッチ製剤、メマリーも増量規定を設けました。これは世界に例を見ない、日本だけの奇妙なルールでした。

処方薬は、本人の年齢、体重、症状、感受性などに応じて医師が適量を勘案するべきところを、認知症医療においてのみ、医師の裁量が認められないという事態が起こりました。その後、2015年に、一般社団法人「抗認知症薬の適量処方を実現する会」が国会議員に働きかけ、厚生労働省は2016年6月1日んい「理由がはっきりしている場合は、少量投与してもレセプトをカットしないようにという事務連絡を出し、少量投与を含む適量処方が認められるようになりました。しかし、このニュースは大手メディアが報じなかったため、多くの医師は増量規定が廃止されたことを知りません。つまり「抗認知症薬は定められた期間は経ったら増量し、最高量まで上げるもの」と考える医師が少なくないのです。

 

3.もう一つの問題点

超高齢者に対する処方率の高さがあります。医療経済研究所機構の発表によると、アリセプトなど抗認知症薬の4種は、85歳以上の17%に処方されていました。また、年間処方量の約半分(47%)が85歳以上の高齢者でした。背景には、日本神経学会がアルツハイマー認知症の患者に処方するよう強く勧めていることなどが考えらます。しかし、同学会の指針は85歳以下のエビデンスに基づいたもので、85歳以上の超高齢者についてはデータが乏しいのが現状です。

事実、1998年に行われたアリセプトの臨床第Ⅱ相試験の資料を見ると、対象の欄に「80歳以上の超高齢者を除外する」と書かれています。「85歳以上の超高齢者には、なるべく薬を伝わないほうがいい。使うなら必要最低限を、期間限定で使うように」というまともな判断が、認知症医療の現場では失われています。超高齢者には用量依存的な処方を続けることは、とても危険だと言わざるえません。

 

本書ではこの後、各抗認知症薬のエビデンスの経緯を書いています。しかし4種類の代表的な治験ではアリセプト5㎎だけです。危険なエビデンス主義にあぐらをかくことなく、目の前の患者さんの適量をさぐり当てる慎重さを持つこと。逆に謙虚さを持つことそこが、認知症治療に必要なのではないでしょうか?

 

 

 

 

 

 

(本の感想)ワーク・エンゲイジメント「健全な仕事人間とは」 島津明人さん

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■著者について

東京大学文学部助教授。博士(文学)、臨床心理士、共著・単著に「自分でできるストレス・マネジメント」「じょうずなストレス対処のためのトレーニングブック」最新書に「ワーク・エンゲイジメント:ポジティブメンタルヘルスで活力ある毎日を」がある。

 

■本書の概要

従業員の健康も生産性の向上も、組織のマネジメントにとっては重要な問題であり、特に働く人々の心の健康をポジティブな面から注目する動きは近年、活発になっている。

本書で紹介するのは、健康の増進と生産性の向上を両立するための考え方をである「ワーク・エンゲイジメント」です。ワーク・エンゲイジメントは仕事に誇りをもって熱心に取り組み、さらに仕事から活力を得ている状態をいい、これが高い人は心身の健康度が高く、組織に愛着を感じ、生産性も高い。ワーク・エンゲイジメントについて解説するとともに、これを高める方法についても論じている。

 

■本の感想

1. ワーク・エンゲイジメントとは何か?

ワーク・エンゲイジメントとは

①「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)

②「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)

③「仕事から活力を得て生き生きしている」(活力)

この3つがそろった状態であり、バーンアウト(燃え尽き)の対概念として位置づけられている。

ワーク・エンゲイジメントの高い人は、心身の健康状態が高く、組織に愛着を感じやすく、仕事を辞めにくく、生産性が高いことがわかっている。

 

2.これまでの概念と何がちがうのか?

図表1「ワーク・エンゲイジメントと関連する概念」はワーク・エンゲイジメントと関連する概念との関係を図示したもので、それぞれの概念が「活動水準」と「仕事への態度・認知」との2つの軸によって位置づけられている。

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まずは、バーンアウトとの関係に注目してみよう。バーンアウトとは一般的には「仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲労的に抑うつ状態に至り、仕事への関心や自信を低下させた状態」と考えられている。

図表1で見るとワーク・エンゲイジメントは仕事への態度・認知が肯定的であるのに対してバーンアウトは仕事への態度・認知が否定的で活動水準も低いことがわかる。

エンゲイジしている人は、仕事で楽しいと思い、仕事から活力を得ているのに対してバーンアウトしている人は逆の状態である。

 

次に、ワーカーホリズムとの異同である。

ワーカーホリズムというと仕事にすべてのエネルギーと時間を傾けている望ましい状態であるととらえられることがある。しかし、どちらも正しい認識ではない。

ワーカーホリックな人は「強迫的に」働くのに対して、エンゲイジメントが高い人は「楽しんで」働くこの点において両者は異なっている。

 

最後に職務満足感との異同である。

会社の中では職務満足感とエンゲイジメントと言い換えているだけのこともあり、その違いについて整理したい。

職務満足感についての定義は「自分の仕事を評価してみた結果として生じる、喜ばしいあるいはボジティブな情動状態」である。ワーク・エンゲイジメントが仕事を「している」の感情や認知を指すのに対して職務満足感については仕事「について」あるいは仕事に「対する」感情や認知のことを指す。つまり職務満足感のほうがより認知的な要素を重視しているといえるでしょう。また、エンゲイジメントは活性化という要素が含まれているのに対して、職務満足感には飽和という要素が含まれている。

 

3.ワーク・エンゲイジメントを高める方策

ワーク・エンゲイジメントを高めるには、どんな点に着目すればよいのだろうか?

大きく分けると

①従業員が行う方策

②組織が行う方策

に整理することが出来る。図表2

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①従業員が行う方策

1)自己効力感を高める

自己効力感つまり、「やれば出来る」という自信を高めることである。

2)キャリアの道筋をつける

仕事に積極的に関与(エンゲイジ)するためには、ある程度長期的な目標を建てることが重要である。

3)感謝する

私たち日本人は、「相互強調的自己」を持っており、周りの人と関係性の中で自己を位置づけています。こうした文化では周りとの調和を保つことが重視され、周りとのトラブルはストレスを生み出す原因になる。逆に回りの人の役に立てたという経験は、自尊心を高めるもとになります。

4)ジョブ・クラフティング

ジョブ・クラフティングは「課題や対人関係における従業員個人の物理的ないし認知的変化」と定義される。つまりジョブ・クラフティングとは従業員がみずからの仕事を変化させながら、仕事の意義を高めていく主体的なプロセスといってもよいでしょう。

 

②組織が行う方策

1)行動→結果の随伴性

行動に対するフォードバックが環境から得られることが、その行動を増やしたり減らしたりすることにつながるといわれている。

たとえば、部下が仕事で頑張ったら、その仕事を褒めることで、ますますその仕事を頑張るようになる。逆にミスをした場合は、どこがいけなかったのかを具体的に指摘することでそのミスを減らす努力をするようになる。したがって、部下のワーク・エンゲイジメントを上げるには「頑張ったら報われる」関わりを上司が行うことが重要である。

2)要求度と資源のマッチング

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(本の感想)認知症の人がさっきいったでしょと言われておこる理由 木之下徹さん

 

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認知症の人がさっきいったでしょと言われておこる理由

 

自分の読んだ内容で勉強になった点を自分なりに書いていきます。

認知症」ということは皆さん一度は聞いたことがあると思います。呆けるとは

どういうことかは本質的には自分が経験しないと分かりませんがその本を読んで

認知症の方の気持ちを想像をすることが少し出来ました。

その人がどのように思っているか分かることで認知症の方に対して優しく接すること

が出来るのではないでしょうか?

「飯はまだかのう?」「おじいさんご飯はさっき食べたでしょう?」このやり取りの

意味が本を読む前と呼んだあとでは違う目線で見ることができるそんな一冊です。

 

1.認知症とは

  認知症とは「認知機能の変化に伴って暮らしの上で支障がある状態」のことです。

  つまり、症状ではないのでそのことは本人にしかわからず認知症と「症」がつい 

  ているのでなにかの症状があるのではないかと思うがそうではありません。

 

2.その病気の本人の苦しみ

  認知症になった本人の苦しみの根本にあるのは以前と異なる認知機能の変化があ

  ってそれは外からわからないということです。

 

3.認知症を予防する方法はない

  記憶は、入れる→もつ→出すという過程である。

  「記憶がしずらい」(認知症)ということと「忘れる」ということは違うという

  こと

  「記憶がしずらい」→入れることが出来ないこと

  「忘れる」→出すことができない

  つまり認知症とは言われたことが入っていないので

  「飯はまだかのう?」「おじいさんご飯はさっき食べたでしょう?」というやり

  とりが認知症でない方は「ああそうだった」となるのに対して「認知症」のひとは

  「食べてない」となるということです。

  ということは今、行われている認知症予防の脳トレといわれるトレーニングは「出

  す」ことの訓練ですので「入れる」ということへの訓練にはならないのです。

  

4.認知症予防の残酷さ

  入れることが出来なくなってきているのにも関わらずひたすら脳トレをされられて

  出来ないことを本人に認識をさせる残酷さを考えさせられました。

  脳トレを強制させる善意の残酷さを知るべきだと感じました。

 

5.認知症というレッテル

  認知症という病名がついた途端に怒鳴っているだけで施設のスタッフであれば「暴

  言あり」と書くでしょう。

  では健常者の方が怒鳴ったら暴言ありということではなく「なぜ怒っているのかを

  聞く、または考える」のではないでしょうか?

  同じ人間として考えることが無意識にできなくなっているのではないでしょうか?

 

6.認知症の薬について 

  認知症の薬は症状の進行をゆっくりにするだけで直すものではない。一方で副作用

  も多く「飲まない」という選択肢もありうる。