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(本の感想)抗認知症薬の不都合な真実 長尾 和宏さん 東田 勉さん

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■著者について

長尾和宏(ながおかずひろ)
医療法人社団裕和会理事長・長尾クリニック院長。医学博士。1984年、東京医科大学卒業後、大阪大学第二内科入局。95年、兵庫県尼崎市で開業。複数医師による外来診療と在宅医療に従事。日本慢性期医療協会理事、日本ホスピス在宅ケア研究会理事、日本尊厳死協会副理事長、エンドオブライフ・ケア協会理事、抗認知症薬の適量処方を実現する会代表理事関西国際大学客員教授、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定医など。
著書に『平穏死・10の条件』(ブックマン社)、『その医者のかかり方は損です』(青春出版社)、『認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいるって本当ですか?』(現代書林、共著)など多数。


東田 勉(ひがしだつとむ)
1952年、鹿児島県生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務後、フリーライターとなる。2005年から07年まで、介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当。医療・福祉・介護分野の取材や執筆多数。著書に『認知症の「真実」』『親の介護をする前に読む本』(いずれも講談社)がある。

 

■本書の概要

認知症の薬は本当に効いているのか?認知症は治るのか?

昔はボケといわれ今は認知症という呼び方になっています。私も過去に認知症の本の感想を書いていますが 認知症とは「認知機能の変化に伴って暮らしの上で支障がある状態」のことです つまり、症状ではないのでそのことは本人にしかわからず、想像するだけで本人の苦しみは計り知れません。もちろん認知症にはなりたくないと皆が思い認知症だと診断されれば少しでも進行を遅らせたいと願い、または直したいと思うのは同然です。本書はそんな認知症の薬についての真実が治験のデータのエビデンスによって記載されています。専門的な用語も解説されておりページ数も少ないので読みやすい本になっています。

 

kazu0000.hatenablog.com

 

■本の感想

1.2018年「フランスのニュース」の衝撃

2018年6月1日フランス厚生省は、以下のアルツハイマー認知症の治療薬を同年の8月1日から保険適用から外すというプレイリリースを発表しました。

・ドネペジル(日本の商品名アリセプト

・ガランタミン(同レミニール)

・リバスチグミン(同イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)

・メマンチン(同メマリー)

フランスでは2005年からHAS(高等保健機関)という公式組織が、医療保険の適用される薬や医療技術などの臨床効果を評価しています。HASはこれらのアルツハイマー認知症薬を「保険でまかなう必要なし」と評価しました。「これらの薬を使うことで症状の緩和、死亡率の暖和、死亡率の低下といった良い結果が得られる証拠は不十分であり一方有害事象の多さは無視できない」という評価でフランスは浮いた費用は保険費をケアに回すといっています。

 

2.日本の抗認知症薬は、このままでよいのか?

一方日本ではフランスと大きく異なる抗認知症薬偏重の医療が行われています。問題のひとつは、抗認知症薬の増量規定です。1999年11月に発売されたアリセプトは、3㎎から開始して1から2週間後に5㎎にするという増量規定を設けました。2011年に相次いで発売されたレミニュール、リバスチグミンのパッチ製剤、メマリーも増量規定を設けました。これは世界に例を見ない、日本だけの奇妙なルールでした。

処方薬は、本人の年齢、体重、症状、感受性などに応じて医師が適量を勘案するべきところを、認知症医療においてのみ、医師の裁量が認められないという事態が起こりました。その後、2015年に、一般社団法人「抗認知症薬の適量処方を実現する会」が国会議員に働きかけ、厚生労働省は2016年6月1日んい「理由がはっきりしている場合は、少量投与してもレセプトをカットしないようにという事務連絡を出し、少量投与を含む適量処方が認められるようになりました。しかし、このニュースは大手メディアが報じなかったため、多くの医師は増量規定が廃止されたことを知りません。つまり「抗認知症薬は定められた期間は経ったら増量し、最高量まで上げるもの」と考える医師が少なくないのです。

 

3.もう一つの問題点

超高齢者に対する処方率の高さがあります。医療経済研究所機構の発表によると、アリセプトなど抗認知症薬の4種は、85歳以上の17%に処方されていました。また、年間処方量の約半分(47%)が85歳以上の高齢者でした。背景には、日本神経学会がアルツハイマー認知症の患者に処方するよう強く勧めていることなどが考えらます。しかし、同学会の指針は85歳以下のエビデンスに基づいたもので、85歳以上の超高齢者についてはデータが乏しいのが現状です。

事実、1998年に行われたアリセプトの臨床第Ⅱ相試験の資料を見ると、対象の欄に「80歳以上の超高齢者を除外する」と書かれています。「85歳以上の超高齢者には、なるべく薬を伝わないほうがいい。使うなら必要最低限を、期間限定で使うように」というまともな判断が、認知症医療の現場では失われています。超高齢者には用量依存的な処方を続けることは、とても危険だと言わざるえません。

 

本書ではこの後、各抗認知症薬のエビデンスの経緯を書いています。しかし4種類の代表的な治験ではアリセプト5㎎だけです。危険なエビデンス主義にあぐらをかくことなく、目の前の患者さんの適量をさぐり当てる慎重さを持つこと。逆に謙虚さを持つことそこが、認知症治療に必要なのではないでしょうか?