この記事は後編になります。前編については下記の記事を御覧ください。
5.他人の存在は作業にどう影響する?
周囲に自分以外の人がいることで、やる気が出て作業効率が高まるというケースがあります。この現状に目をつけトリプレットは、糸巻き実験を行いました。この実験は釣り糸を巻く作業が一人で巻くのと2人で巻くのでそのスピードがどれだけ変化するかを比較しました。結果は一人で巻くより2人で巻いたほうがスピードが早くなることが判明しました。この現象をF・Hオルポートはこうした現象を「社会的促進」と名付けました。
しかし、必ずしも他者の存在が良い結果を生むとは限りません。逆に他人がいることで作業の効率が低下する現象を「社会的抑制」と呼びます。
ではなぜ社会的促進と社会的抑制が起きるのでしょうか?ザイアンスはそれらを分ける鍵は個人の熟練度にあると考えました。物事に対して練れているかどうかで社会的促進と社会的抑制のいずれかが起こるということです。つまり社会的抑制を避け促進効果を生むためには、その物事に対して経験を積むか知識を高めることが必要になるわけです。
6.人は自分の行動に一貫性を持ちたがる
訪問販売員に「話だけでも聞いてもらえませんか?」と言われ、断るつもりでしぶしぶ話しを聞いていたらいつの間にか商品を購入していたという話はよく聞きます。このように相手が承認しやすい小さな要求から段階的に要求を大きくし本来の要求を成功させる技術を「フット・イン・ザ・テクニック」と言います。
また、小さな要請を承諾したことで「自分がいいと感じた要請は受け入れるべき」という一貫性を持ちたいという心理が働き、承諾率があがります。こうした心理のことを「一貫性欲求」といいます。
7.自分は一般的と人は思いがち
無意識に人は「自分が思っている意見は適切である」と考え、たとえその意見が間違っていたとしっても「他の人が同じ立場なら同じ判断をしたはず」自分の意見や判断を正当化します。このような現象を「フォール・コンセンサス効果」と呼びます。この効果は自分と似た価値観や経験を持つ人と協議する環境や、自分を選択したことを重要視してことに合意を得ようとする心理、自分の行動は他者によって引き起こされたのと同じ状況なら他者も同じ行動を取るであろうという意識、自分は価値のある人間でありその判断は間違いないという思考といった複数の要因が重なることで発生すると考えられています。
ロスらは、実際に行動を選択する状況でもフォールス・コンセンサス効果が生じると考え、ある大学で「サンドイッチマン実験」を行いました。生徒に「サンドイッチマンの広告板をぶら下げてキャンパスを歩いてほしい」と依頼し、この依頼に同意するかどうかを回答してもらいます。さらに他の学生に同じ依頼をした場合に同意するかどうかも回答してもらいます。実験の結果、依頼に同意した学生の多くは他の学生も同意すると回答し、逆に拒否した学生の多くは他学生も拒否するだろうと回答しました。好みや意見の考え方だけでなく、行動選択の状況でもフォース・コンセンサス効果が生じることが証明されました。
8.人はどのように説得されるか?
説得とは4つの過程で成り立っている。
①注意
まずは、送り手のメッセージが相手の注意を引くこと
②理解
次に送り手のメッセージが相手に「理解」されること
ここで情報が相手にとって価値を持つものであれば次に繋がります。
③受容
この段階で相手は送り手のメッセージを受け入れたことになります。
④記憶
最後にその説得内容が相手に「記憶」されれば完了になります。
さらに受け手側にあまり専門知識がない場合に良い面だけ提示する「一方的メッセージ」が有効で反対に受け手側に知識がある場合は、悪い面も含めて提示する「両面的メッセージ」が有効であるとされています。
また、説得において注意しなければならないことが、心理的リアクタンスです。これは説得された内容に関し、受け手側が自分の驚異は大きいと感じると、あえて言われた事とは反対の行動をとって、自由を回復しようとする心理プロセスのことです。
9.囚人のジレンマとは?
人は生きていく中で様々なジレンマ(板挟み状態)に直面します。そのひとつを説明する事例に、囚人のジレンマゲームがあります。
ある事件で共犯の疑いが掛けられた2人の男たちに対し、検事がある司法取引を持ちかけるのです。
①ふたりともこのまま黙秘し続けたら、どちらも懲役3年
②片方が自白したら、自白したほうが不起訴で、もう一方が無期懲役
③両方とも自白したらともに懲役10年とする
この実験について相手がどう出るか分からない状況で、悩みは深まるでしょう。しかしこのゲーム内容を整理してみると自白してしまった方が結果的に結果的に特になるのです。
このジレンマで生じるのは相手がどんな行動をとるか、信用できないからにほかなりません。そして、もうひとつ考えなければならないのは、相手の選択に対して黙秘するというのは「協力する」という意味合いを持つということです。結果的に自分が存すいる可能性があっても人は協力するということがあります。これは同じゲームを、1回限りでなく何度も繰り返し行うことで謙虚に表れます。このことから人は長く付き合う相手に対し、協力的になりがちだという側面が見えてきます。
10.囚人のジレンマを用したコンピューター・トーナメント
囚人のジレンマでは、対戦を何度も続けると協力的な関係が出てくると言われています。この関係についてコンピューターを使って実証したのが、国際政治学者のアクセルロッドです。彼はゲーム理論の専門家たちに呼びかけて戦略プログラムを募集しました。「コンピューター・トーナメント」と呼ばれるこの対戦で結果的に一番高い成績をだしたのが「応戦戦略」という最も単純なプログラムでした。応戦戦略とは、最初は協力し、その後は相手が前回取った手と同じ手を自分も取るという戦略です。
アクセルロッドは、横線戦略の4つの特徴を上げています。
①相手を裏切らない上品な戦略であること
②裏切りに即座に反応すること
③相手の協力にも即座に協力すること
④意図が相手にも分かりやすい
「目には目を、歯には歯を」という言葉も、この応戦戦略を表しています。
おわりに
この本はひとつの項目が2ページづつの構成になっており難しい社会心理学を分かりやすい構成になっています。また、図解もされており文書と図のバランスがとても良いです。聞いたことのある心理学については更に深く、知らない心理学についてはわかりやすく記載されており、とてもおすすめの一冊となっています。