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(本の感想)前編 介護再編 武内和久 藤田英明

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■著者の紹介

武内和久 たけうち・かずひさ
1971年生まれ、福岡出身。東京大学法学部卒業後、厚生省(現厚生労働省)に入省。在英国日本国大使館一等書記官、厚生労働省大臣官房、厚生労働省医政局等を経て、福祉人材確保対策室長を最後に退官。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社アドバイザー(厚生労働省参与、東京大学非常勤講師等)等を歴任。共著書に『投資型医療』(2017年、小社刊)、『公平・無料・国営を貫く英国の医療改革』(2009年、集英社新書)、『2025年、高齢者が難民になる日』(2016年、日経プレミアム新書)など。

藤田英明 ふじた・ひであき
株式会社日本介護福祉グループ創業者。株式会社CARE PETS代表取締役(犬や猫の訪問介護・看護やペットシッターサービス)、株式会社けあらぶ代表取締役、医療法人杏林会八木病院理事、株式会社Caihome取締役(介護と学童保育の融合)、株式会社トリプルダブリュー顧問(排泄予知IoTの「Dfree」を開発)。明治学院大学社会学社会福祉学科卒業(専門は精神障害者支援)後、社会福祉法人特別養護老人ホームに就職し介護職員兼生活相談員として着任。その後夜間対応型デイサービスで起業し、株式会社日本介護福祉グループを設立、全国850事業所を開設。内閣府規制改革会議に参画(介護・保育ワーキンググループ)。著書に『社会保障大国日本』(幻冬舎)がある。

 

■本書の概要

厚労省官僚と介護事業所経営者が介護の知られざる現状を生生しく知られざる現状を明らかにし、対策を提言します。介護士の不足、あなたの親とあなたは介護を受けれるのか?介護の現場は外国人労働者ばかりになる?虐待されない介護施設は?介護仰臥位のIT化とは?

 

■本の感想

 1.介護職の不足に対応出来なければ日本は衰退する

介護業界全体を見ると、人手不足は深刻な状況にあります。財団法人「介護労働安定センター」が公表している「2017年度介護労働実態調査」によると「従業員が不足している」と答えた介護事業所は66.6%で、4年連続で不足感が増加しています。不足理由は「採用が困難」が88.5%で「離職率が高い」が18.4%となっています。

その一方で、現在、180万人もの介護労働者が現場で働いていることも事実です。すでにあらゆる産業の中で最も従事者数が多い職種のひとつになっており、今後も確実に伸びていきます。

厚生労働省によると、2025年には253万人の介護労働者が必要と試算されており、1年に10万人のペースで増やしていかないといけません。

2000年に介護保険制度が始まった時は要介護者は200万人でしたが、現在は660万人になっています。このニーズの急増に担い手が追いついていないのです。今の介護職員の増員ペースで行けば2025年には約38万人も不足すると予測されています。

 

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2.高級有料法人ホームだから安全・安心というのは神話

介護施設には様々な施設があり、そのクオリティはピンからキリまであります。たとえば、入居金に数千万払う有料法人ホームもあれば、毎月9万円程の費用で入居できる住宅型有料老人ホームまで、その価格帯は様々です。

では、一般の老人ホームと高級老人ホームでそこで働く職員の質には差があるのか?というと「そうではない」というのが現実です。その理由は、高級老人ホームも安い老人ホームもそこで働く「介護職の給与はほぼ同じ」 であり、どの施設も人材不足です。介護職の給与は老人ホーム運営事業者に介護報酬として支払われた中から支払れます。そのため、支払われる金額は結果的に同水準になって来てしまうのです。結局、建物が高価であろうが安価であろうが、コスト回収期間は変わらないため、従業員にさける賃金の総額は同じような水準になり、人件費も同じになるざる得ないのです。

 

3.100%虐待は起きないと言える介護施設は100%存在しない

どんな介護施設でも虐待が起こる可能性があります。施設の組織編成に問題があることも背景のひとつです。現場の状況として各施設で提供される介護の質はその施設長に委ねられている現状です。介護事業者による事業拡大が続いている中で、若く経験の浅い人が施設長を任される事が増えてきている日本の介護業界において、様々な問題が起きる可能性があります。たとえば

①マネジメント経験がない人が施設長に就任する

②施設長の役割が分からない

③スタッフから信頼されていない

④現場のマネジメントができない

⑤上司から数字を求められ、部下からは働きやすさを求められる

もともとは介護保険制度がスタートする前は「介護は福祉である」という概念が強い分野でした。それが作用した結果「お上意識」が非常に強い社会福祉法人が多く存在し、結果として、経営を改善するとか人の能力を引き出す点で意識が低くなっている法人も散見されます。これがリアルな社会福祉法人の現状です。

 

4.介護の目的には自立と尊厳

そもそも介護の目的は何なのでしょうか?

介護という言葉は介助と看護の合成語として生まれました。その目的としては一般的にには「自立の支援」と「尊厳の自立」の2つが主な柱です。この2つは介護保険法にも明記されています。ところが、この「自立の支援」と「尊厳の維持」は人によって捉えられ方が違います。抽象的、哲学的な概念であるため無理もありません。何を持って自立とするか?リハビリやトレーニングをして、自分で歩けるようになるのは自立と言えますが、では、認知症の高齢者にとって自立とは何なのか?歳とともに衰えていくさまざまな身体的機能を半ば強制的に維持向上させ、自立を向上せ、自立を強要することが意味のあることなのかは十分に考えなければなりません。もちろん、自分のことは自分で出来ることが自立の基本ではありますが、それをどう捉えるのかは一概には定義できません。自立と言っても身体ではなく、精神的な側面や、生活面も考慮する必要があいります。また、そもそも人間にとって尊厳とは何を指すのでしょうか?その人のプライドを維持し、アイデンティティを担保し、その人らしい生き方が出来るということかもしれません。しかし、それが具体的にどういう状態を指すのかというと、個々の人の人生観や死生観の問題になってきます。私達は常にこの問題について考え続け、追求し続けなければ、問題の本質に迫ることはできません。

 

 5.介護業者の”黒字倒産”が常態化する

 介護業界の人材不足が深刻の度合いを深めていることは、さまざまな現象から見て取れます。特に首都圏近郊でこの傾向は顕著です。実は高齢者はもともと人工集積地でない地方都市から始まっていて、そうした地域では、今はピークを過ぎて高齢化率が下がる局面に入ってきています。東北や山陰地方などがそうです。東京での介護職の有効求人倍率は3倍ですが、夜勤有りの介護職募集となると10倍以上に跳ね上がります。経営的に黒字でも倒産するし、運良く人が集まっても経済的に苦しいというのが、大都市の介護事業者の現状です。

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6.達成感が得られにくい介護の仕事

医療の場合は、治療して治ったかどうか、私傷病の回復の具合が目に見えてわかります。ところが介護の場合は心身の状態が回復することはまれで、多くは「維持」です。
 身体的にはまだ見えやすいのですが見えやすいですが、精神的にもとても分かりにくいのです。目に見えにくいものを評価していくという物差しや方法論が、まだ介護の分野にはありません。たとえば、介護保険対象のうち、要介護1,2、3程度の軽度の方や、認知症を患っている人の場合では対応が違います。身体的には介助を必要としなくても、精神的な支援が必要ですが、そこが何をもって改善されたかと判断すでばいいかもわかりません。逆に要介護4,5の人のように、改善が見込めない人のケアをしていった結果、何が良かったのかを検証することも大変難しいことです。このことが介護職の精神的に負担をかけるに違いありません。達成感を短い時間軸で得ることが出来にくい仕事なのです。

その上、世代間ギャップでモチベーションが得にくいという問題もあります。現在の高齢者の人たちは物心ついたころからすでに食料の心配をすることがなく、時代的にも高度成長期の時期を働き盛りとして謳歌してきたので、非常にプライドが高い面があります。権利意識が強く、介護職への要求も高くなりがちです。そうなると、介護職の人達からすると「プライドが高く扱いづらい」「わがまま」と感じてしまうのです。そうした理由もあって、介護職として働きたいと本気で考えている人は、高齢者施設から障害者施設のほうに流れています。介護施設とは比べ障害者施設では求人の10倍の応募がるということもザラです。障害者施設で働いていると「大変な仕事をしている」「素晴らしい仕事をしている」とゆう理解を周囲から得やすいという面があるのも事実です。介護施設では、高齢者から下に見られて、使われていると感じてしまうのに対して、障害者や障害児をケアをするときには自分がケアを施すという一種の満足感がえられるというような、潜在的な意識が影響しているといったこともあるでしょう。そうした考え方の是非は別として、それがひとつの現実です。

 

 今回は前編として後編に続きます。