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(本の感想)前編 組織の未来はエンゲージメントで決まる 株式会社アトラエ代表取締役 新居佳英 グロービス経営大学院講師 松林博文

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■著者の紹介

新居 佳英(あらい・よしひで)
株式会社アトラエ 代表取締役CEO
上智大学理工学部を卒業後、1998年より黎明期のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社。2000年には戦略子会社インサイトパートナーズを立ち上げ、同社代表取締役社長に就任。その後、2003年10月にアトラエを設立。IT/Web業界に強い成功報酬型求人メディア「Green」、機械学習を活用したビジネスパーソン向けのマッチングアプリ「yenta」、組織におけるエンゲージメントを定量的に可視化することで組織改善を可能とするSaasツール「wevox」を展開。創業以来「意欲ある社員が無駄なストレスなく働ける組織作り」を徹底し続け、2016年には東証マザーズへ上場、2018年には東証一部への市場変更を実現する。

松林 博文(まつばやし・ひろふみ)
グロービス経営大学院講師
海外営業を経てミシガン大学MBA修了後、ジョンソンで中長期戦略立案、マーケティングを担当。日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)特別執行役員。個の創造性発揮、次世代型組織デザイン開発をライフワークとする。 著書、共著書に『[実況]マーケティング教室』(PHP研究所)、『クリエイティブ・シンキング』『グロービスMBAマーケティング』(以上、ダイヤモンド社)、『MBA経営キーコンセプト』(産能大学出版部)、『ビジネスに出る英単語』(講談社)、翻訳書にはアンジャン・V.セイカー『バリュー・クリエーター』、ジェリー・ワイズマン『パワー・プレゼンテーション』(以上、ダイヤモンド社)などがある。趣味はサーフィン&ワイン&トロピカルアート。

 

■本書の概要

最近よく聞くようになったエンゲージメント。エンゲージメントとは何か?ということから組織でそのエンゲージメントをどのように高めることで組織力の向上に繋がっていくかということを丁寧に解説しています。入門書として最適な本となっています。

 

■本の感想

1、初めに

「どうすれば優秀な人材を定着できるか?」「どうすれば社員が意欲的に仕事に取り組むのか?」これはどの組織もが抱える大きな課題です。背景には少子高齢者化によって若手優秀層の採用競争が激しくなってきていることや、人材の流動化が加速していること、さらには知的生産性社会の到来による競争環境の変化、若者たちの価値観に従来の組織が合わなくなっていることなどがあるのだと思います。

従来のマネジメントはミスが出ないように「管理」するという意味合いを強く持っていました。しかし、これからの時代のマネジメントは、社員が意欲を持ち、知恵や創造性を遺憾無く発揮するため「環境づくり」や「サポート」へと変わっていかなければなりません。

「エンゲージメント」という概念は「組織や職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」と定義されます。そして残念ながら日本企業では一般的にエンゲージメントが低いという調査結果が出ています。エンゲージメントが低い状態では、組織のパフォーマンスや生産性が高まるはずもなく、このことはすでに複数の調査機関や研究機関によって明らかにされています。働き方改革などでの労働時間の抑制などでは根本の解決にはならないのです。

 

2、やる気のない社員が7割 日本企業の驚くべき実態

日本では「やる気のない社員が7割を超えている。この実態を皆さんはどう思うでしょうか?これは世界的な調査会社ギャラップによる調査で示された値です。2017年5月に発表されたその調査結果を日本経済新聞は下記のように報じています。

 

日本経済新聞

世論調査や人材コンサルティングを手掛けるギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あるれる社員」の割合が6%しかいないことがわかった。米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139ヵ国中132位と最下位クラスだった。企業内に著問題を生む「周囲に不満を撒き散らしている無気力な社員」の割合は24%「やる気のない社員」は70%に達した。

 

こうした傾向を見られることに加えて、人手不足と採用難が企業を襲ってきます。2019年3月卒業予定の大学生・大学院生の大卒求人倍率は1.88倍で就職氷河期と言われた2000年3月卒の0.99からほぼ倍増しており、とりわけ従業員300人未満の中小企業では9.91倍の過去最高の数値となっています。

「人手不足倒産」も増えています。帝国データバンクによれば、従業員の離職や採用難により人手を確保できず、収益が悪化したことを要因とする倒産は2013年から17年までの5年間で2.5倍に増加しているそうです。

企業にとって、人材の確保・維持がかつてないレベルで大きな課題となっていると言えるでしょう。そんな状況にもかかわらず、日本企業の全体傾向としては意欲のあふれる社員は僅かで、やる気のない社員が多く、しかも若手が次々と辞めてしまうという状況が生じているのです。

 

3、エンゲージメントの定義

コンサルティング会社ウイルス・タワーズトソンによるエンゲージメントの定義

〜従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し自発的に自分の力を発揮する貢献意欲〜

エンゲージメントには厳密にいうと2種類あります。

①従業員エンゲージメント

企業・組織と個々の社員の間の関わり合い。組織に対する自発的な貢献意欲

②ワークエンゲージメント

「仕事の内容」と個々の社員との関わり合い。主体的に仕事に取り組んでいる心理状態を表したもの。

従業員エンゲージメントが高くてワークエンゲージメントが低いということを簡単に説明すると「会社には愛着があるが仕事には身が入らない」状態のことです。

逆にワークエンゲージメントが高くて従業員エンゲージメントが低いというのは「仕事は好きだけど会社が嫌い」という状態のことです。

特に区別することが必要ない場合は総称してエンゲージメントと呼びます。

 

4、従業員満足、モチベーション、ロイヤルティとの違い

職員満足度

 職場環境や給与、福利厚生などへの満足度=組織が与えるのも

モチベーション

 行動を起こすための動機=個人が感じるもの

ロイヤルティ

 組織に対する帰属意識、忠誠心=上下関係が生み出すもの

エンゲージメント

 主体的・意欲的に取り組んでいる状態=相互の対等な関係に基づくもの

 

5、心理的安全性とエンゲージメント

Googleは2012年から約4年もの歳月をかけて労働改革プロジェクト「ポロジェクト・アリストテレス」を行い、チームが成功するための5つの鍵を特定しました。

心理的安全性

不安や恥ずかしさを感じることがなくリスクある行動を取ることができるか

②信頼性

限りある時間を有効に使うため、互いに信頼して仕事を任せ合うことができるか

③構造と明瞭さ

チーム目標や役割分担、実行計画は明確化

④仕事の意味

メンバー一人ひとりが自分に与えられた役割に対して意味を見出すことができるか

⑤仕事のインパク

自分の仕事が社会全体に対して影響力を持っていると感じられているか

 

この5つの中で最も重要な要素が「心理的安全性」だと結論付けられています。

 

6、なぜ日本企業ではエンゲージメントが低いのか?

日本では長い間「人が辞めない」ことを前提として組織運営をしてきました。離職という問題がほとんどなかったため、エンゲージメントを意識する必要もありませんでした。そのためエンゲージメントを意識している経営者は非常に少ないと感じています。

日本企業においてエンゲージメントが低い背景には色々な要因が考えられますが、多くの企業では課題認識が十分ではないように感じます。しばしば見られるのが、この問題を表面的なワークライフバランスや働き方の問題に矮小化して捉えてしまう傾向です。

働き方改革」の議論でも、いわゆるブラック企業の問題などを背景に長時間労働をそうやって是正するか?といった点にばかり目が向けられているように思います。長時間労働が過労死を招いたり、メンタルヘルスの問題につながるのは大きな問題です。しかし、日本の企業組織が抱えている課題は、長時間労働を是正すれば解決するのでしょうか?働き方の問題は、労働時間(労働の量)だけではなく、エンゲージメントの強さ(労働の質)も併せて考える必要があります。この2つのマトリックスが下記のようになります。

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今般の「働き方改革」で焦点が当てられているのでは右下の「ブラックワーカー」層、エンゲージメントが低く労働時間が長い人たちです。本来は、労働者には、職業選択の自由があり、ブラックワーカーとして働く必要はありません。しかし失業不安や将来不安などから実質的には会社の言いなりになり働く以外に選択肢がない(と思い込んでる)状態の人が少なからずいます。この層の働き方には改革が必要です。

しかし、労働時間が長くてもエンゲージメントの高い人たちもいます。右上の「ビジネスリーダー」層です。起業家や経営者層には長時間労働の人は少なくありません。スタートアップ企業では、時間を忘れて仕事に没頭するような、意欲あふれる若者が活躍しています。このような人たちにとって、画一的な基準で労働時間を制限されたくないという人もいるでしょう。これは、彼らの仕事や組織に対するエンゲージメントが高いからです。「働き方改革」が単なる「長時間労働の抑制」になってしまうと、このビジネスリーダー層の人たちの働き方が制約される遅っれがあります。

また、ブラックワーカー層についても、本質的な課題はエンゲージメントの低さにあります。エンゲージメントの低さにあります。エンゲージメントの低い状態を放置して労働時間の短縮を図るだけでは、いわば対処療法に過ぎず、企業活動や日本経済にプラスの影響は生まれないのです。

エンゲージメントを高め、生産性や定着率を高めるような好循環を生み出すことこそ、働き方改革の最優先課題ではないでしょうか?

 

今回は前編として後半に続きます!!