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日頃の思いを書いていきます。

(本の感想)後編 介護再編 武内和久 藤田英明

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この記事は後編になります。

前編は書きを御覧ください。

 

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 7.2025年までに80万人確保という高すぎるハードル

つまり、現時点から70万人を増やさないといけない、推計当時のペースで行けば215万人までには増加するだろうと見込まれており、それでも38万人たりないということはすでに述べたとおりです。また、介護人材をめぐっては「とりあえず誰でもいいから人を集めたい」という議論と「質を担保されないと良いケアはできないのだ」という2つの議論が繰り返されています。この調子でいくと、思い切った打ち手なしには70万人を新しく雇い入れるということは出来ないのではないかと考えます。

また、国内でかき集めても到底見込みが立たないとの事で外国人が入ってくれば問題ないだろうという議論もあります。しかし、コミニュケーション能力が必要な介護の仕事は、工場ラインで回したり、コンビニでレジ打ちをしたり、ラーメン屋で注文を取ったりという仕事とはわけが違うということも理解しておかなければなりません。特に認知症の人の介護をする場合はコミニュケーションが欠かせないというより、一般の日本人よりも一段上のコミニュケーション能力が求められますから、介護の仕事は外国人にとってパードルが低くないのです。

一口に介護と言ってもサービスに濃淡があります。重度な障害があってほとんど医療に近い世界から、一緒に買い物に行ったり、調理をしたりといった生活支援まで非常に幅の広いものがあります。デイサービスでリクリエーションをするのと、特養でターミナルケア、見取りをするのでは全く別の仕事といって良いでしょう。そうであるのに介護という仕事を一括りに論じると実態が見えなくなります。

ここでイメージを持ってもらうため、大まかに主なサービス利用者の特徴を紹介してみます。

 

特別養護老人ホーム

要介護度  3ー5

年齢層   80歳以上

所得層   低所得者

医療依存度 軽〜中

 

②有料老人ホーム

要介護度  自立から5

年齢層   65歳以上

所得層   中〜高所得層

医療依存度 なし〜高

 

8.介護は奥深い難しい仕事

介護の仕事は基本的にコミニュケーション能力が絶対に必要な仕事です.認知症になった人や、脳梗塞で意思疎通が出来なくなった人など、また、それを支えている家族だったり、周囲の人だったり、精神的に負担を負っている人たちとのコミニュケーションをいかにとれるかによって、その成果が大きく変わってくる仕事です。介護は多種多様な価値観を背負っている人たちに対して、どのパターンにも適応しながら、ケアをデザインしていく高度に“知的”な作業です。その適応力こそが、単なる家族会ごとの大きな違いなのです。利用者の経歴や希望を網羅的に聞いていくと、その人の人物像が大体わかってきます。すると、その人に対してどういうケアが良いかの仮説が立てられます。そしてその結果どうがったかという振り返りを行いPDCAサイクルを回していくのです。これができる人が現場にいる必要があります。しかし、このPDCAを回すという発想が不十分な現場が多いのも事実です。介護の専門学校では「非審判的な態度」について学びます。要は介護をするとき、「あなたが良いと思うか悪いと思うかは関係ない」ということ。利用者家族の話を、それが良い・悪いという価値判断は別にして聞きなさいということです。そこから推測をして仮説を立て、プロファイリングして、その人物像を明らかにしていきなさいと習うのですが、大概の人はこれが出来ていません。自分のこうあるべきを持ち込んでしまうのです。現場経験が長い人ほどにこの傾向が強まります。こうなると、介護職の間で齟齬が生まれて「あなたの考えは間違っている」「あなたの方が間違っている」という、どこまでいっても平行線を辿るしかない議論に終始して人間関係が悪化します。介護職は実は高度な知性・感性と対人能力が求められるのです。エモーショナルな仕事のようで、本当は科学的であり、かつコミニュケーション能力が高くなければできないという、非常にハイレベルで知的な仕事なのが介護職であるといえます。医療の場合は、骨折であろうが、ガンであろうが、ある程度定型化された処置が行なえます。しかし、介護は特に相手ごとに配慮しなければならず、知性と感性、左脳と右脳が必要とされる仕事なのです。

 

9.介護はクリエイティブな仕事でもある

 著者の経営する介護施設の事例になります。もともと法人経営をしていた高齢男性のAさんは認知症になって、トイレも失敗してしまうし、奥さんに暴力を振るうこともありました。いろいろと試してうまくいったのは、その人の”尊厳”に訴えかけることでした。Aさんには、施設の名称が入った名刺を持ってもらい、営業先に一緒に回ってもらうことにしたのです。名刺には「最高顧問」と肩書を入れて「顧問、今日もよろしく御願い致します。」といってデイサービスの営業部門と一緒に営業先に同行するのです。すると本人的にも朝になると「出勤しなきゃいけない」という気になってお迎えの車を背広を着て待つようになりました。Aさんは認知症で3と4をいったりきたりしていたのですが、その後は要介護3で維持して症状も落ち着いてきました。失禁もなくなり、奥さんへの暴力もなくなりました。このように考えていくと施設に100人入居者がいたら、100人違うサービスをしなければなりません。ですから介護職は非常にクリエイティブな仕事なのだといえます。

 

10.介護職の質の良し悪しの見分ける困難さ

介護においても最も困難を極めるのが、介護では生活全般を見守っているため、本人の幸せな状態を追及していく点です。その点において、その「幸せな状態」がそれぞれ違うことが介護を一層難しいものにしています。ある人にとってはいいことも、ある人にとっては迷惑だったり、お節介に感じたりすることはよくあります。うな丼を食べたい人もいれば、ジャムパンでもいいという人もいます。同じ位の関わりをしても、ある人は「相手にしてくれなくて寂しい」と感じるでしょうし、ある人は「うっとうしい、少し放っておいて欲しい」と感じるでしょう。それにその人のすべて心地いい状態にするのが健康にいいかというと、それも違います。「ジャムパンだけ食べていけば幸せ」という人に毎食与えれば糖尿病にまってしまいます。「外出するのが億劫だから、毎日テレビだけをみて生活をしたい」という人の言う通りに生活をさせているとあっという間に寝たきりになってしまいます。

入居者の要望を聞くことは大事だけども、全てを聞いてはいけない。その判断をどのようにするかは専門的な知識が必要です。介護職にとって「能力が高い」とはどんなことを指すのか。これは非常に難しい問題です。逆にいえば評価のしにくさは、介護職の仕事の奥深さや幅広さを示しているともいえます。介護職にはコミニュケーションであったり、目配り、気配り、声掛けであったりとさまざまな要素があるので、それをどうやって評価するのか、例えば数字化するのかまったく確率されていません。そういう介護職の人々は、往々にして、精神論に走ってしまう傾向があるように思われます。よくあるのは、「きらきら介護」「ワクワク介護」「ありがとうと言われる仕事」というフレーズです。要するに「自分たちの仕事は感謝されることが報酬です。だから給与は高くなくて構いません」 といっているようなものです。向上心をもって介護職界の中で自分を高めようというより、現場に寄り添っているようなふりをして、より大きな責任を追わないでいることを選択しているのです。

介護福祉士の養成施設や研修制度など、様々な形で学ぶシステムはあるのですが、そうして学んだことと現場でのギャップが大きすぎて生かせない面があります。このギャップから働いてから学ぼうという気力が湧かなくなります。「学校でこういうことを学んだんですけど」と先輩に意見すると「若いのに小賢しいことを言うな」「うちはこういうやり方なのよ」と一括されて、心が折れてしまうということはよくあります。介護職で働く人は、専門性と高めていこうという人と、福祉なのだから安定してずっと給与を貰えるから働いているのだという人に分かれます。両者はまったく考え方が違うので、現実で衝突することになるのです。

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職場を辞めた理由は、労働環境がそれなりに上位を占めているのですが、事業者のほうに理由がありそうな項目も入ってきています。「うちは利益を上げることが大前提」という事業所もあれば、「うちはとにかく利用者のためになることを極めるのだ」という施設もあります。いろんなパターンがありますが 事前に説明していなかったり、うまく浸透されていなかったりします。実際に採用するときも、何気ないパンフレットをポイっと渡したりするだけだったりします。人の採用の仕方を知らないだけなのか危機感がなさすぎるのか、どちらなのかだと思います。一方で、労働者側が入職する時に法人や事業者の理念や方針に共感下というのはほとんどありません。入るとき全然チェックしておらず、入ってみるとすごく不満に思ったという人も多いように思われます。どちらの努力も欠けているから、不幸な結婚のようになってしまっているのでしょう。

 

8.テクノロジーはどこまで代替可能か?

介護にテクノロジーを導入するとき、業界内部と外部の味方にスレがあります。外部には「介護は工場労働のようなもの」という味方を持っている人がまだいます。その根底には結局、簡単な仕事だとうという考えがあります。しかし、再三述べているように決して簡単な肉体労働ではありません。内部からのズレとしては、何故かテクノロジーを欲しがらない事業者が多いことが上げられます。欲しい場合の理由は、はっきりしていて、ひとつは人手不足とか、切実な業務の厳しさをそれによって緩和したいという場合です。もうひとつは、何となくたまっているイノベーションへの渇望、革新への願望があります。新しい要望があります。新しいムーブメントを起こしたいという思いが高じて、という場合もあると思います。そういう意味で、内部と外部でテクノロジーを巡る思考が微妙に交錯していて、まだ1つの線に結ばれていないのです。

しかし、今後はおそらく、必要性にかられて、テクノロジーはどんどん現場に入ってくるでしょう。介護職はそれでも最後まで残り続ける仕事です。大事なことは何のためにテクノロジーを使うかです。それには省人化・省力化という大きな目的があります。働く人の心身の負担を減らして、掃除と排泄ではどちらが優先かというと、当然ながら人の尊厳のほうが重要です。今まさに試行錯誤にとば口に入っているということが言えます。

 

9.介護は100兆円産業になる

介護保険制度からの介護給付費は現在約10兆円ですが、これが10年後の2028年はその倍の20兆円になると推計されます。20兆円は現在の電力産業と同規模です。この20兆円というのはあくまで介護給付費だけの金額なので、介護を取り巻く産業である福祉用具や高齢者向け宅食、衣料品などは含まれていません。これらの周辺産業を含めると2025年時点のマーケット規模は約100兆円と言われています。

 

10.最後に

本書は介護を経営者の目線でさまざまなデータから今と今後を示しています。介護は日本の大きな課題であり、同時に産業としては非常に重要なものです。今回紹介したこと以外にも今の事業者への問いかけや若者への提言なども記載されていますので皆さん是非、読んでみて下さい。読みやすく一気読みしてしまいました。

 

 

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