この記事は後編ですので前編は下記からどうぞ
■本の感想
5.治る認知症
現在、認知症を治す薬はありません。しかし、早期診断によって「正常圧水頭症」のように、治る可能性がある認知症では早めに治療を始めることができます。
また、早期診断により、記憶が失われたときに備えて、自分が今後どう生きたいのか、判断がしっかりしているうちに、いろいろと準備をしておくことも出来ます。ショックで知りたくないという方もいるかもしれませんが、やはり早めの診断をおすすめします。
また、上記のガイドラインに記載しているような病気と間違えられることも多くあります。認知症の診断は難しく、うつ病と間違われたり、せん妄などと間違えられることもあります。高齢者はたくさんの薬を処方されがちですから、薬の副作用によって認知症に似た症状が引き起こされることもありえます。間違った診断をされて治療が違った方向に進まないためにも、早めに専門医の診断を受けることをおすすめします。
6.診断の流れ
認知症を担当する科は、精神科、脳神経外科などがあり「物忘れ外来」「メモリークリニック」などと謳っているところもあります。診断の流れが下記のとおりです。
問診→心理検査(MMSEや長谷川式スケールなど)→臨床検査(CTやMRIなど)→血液検査など、これらの検査から総合的に判断し、診断結果が告知されます。
認知症になる危険因子としてもっとも大きいものが、年をとることです。年齢が上がるにつれて認知症の有病率がぐんと高くなります。70代前半では3%台だったのが80代後半になると40%を超え、90代以上では60%を超えます。
7.認知症になってわかったこと
先生が認知症になってわかったことに、認知症は「固定されたものではない」ということが記載されている。先生の場合は朝が調子がよく夕方になると疲れてきて自分がどこにいるのか、何をしているのかが、わからなくなっていくとおっしゃっています。
先生自身も認知症になったらその症状は不変的であると思っていたそうで、これほどよくなたり、悪くなったり、グラデーションがあるとは考えてもいなかったそうです。
また、認知症の人と接するときに心に留めておいて欲しいこととして「時間を差し上げる」ということ上げています。まず、相手のいうことを聴いてほしい。「こうしましょうね」「こうしたらいかがですか?」などと、自分からどんどん話しを進めてしまう人がいますが、認知症の人は戸惑い、混乱して、自分の思ったことをいえなくなってしまいます。その人が話をするまで待って注意深く聴いて欲しい、きちんと待って、じっくりと向き合ってもらえると安心するとのことです。
認知症の人はそれぞれ別の人で当たり前に全員が違います。みんな違ってみんな尊い存在であることを忘れないでほしいと思います。そこに尊厳が生まれるのです。
8.騙さない
認知症の方に接するときに心得として「騙さない」ということを挙げています。先生の現役のとき、相談されたことのひとつに、認知症の診断を受けさせたいが本人に対してどう言えばよいのか?というものがありました。嘘をついて、騙して受診させるケースもあるようですが、先生はそのようなことに反対をしています。「相手は認知症だから大丈夫だろう」と、認知症のことをよく知らない人は思いがちですが、そうではありません。何となくおかしいということや、尊厳をもって扱われていないことは、認知症になってからもわかります。先生は本書で何度も「認知症だからといって色眼鏡でみないで、普通に接して欲しい」といっています。
9.薬の副作用
認知症の薬に関して、症状を緩和し、抑制する薬はできましたが、発症前の状態に戻す治療薬はまだありません。
脳血管性認知症を除くと、アルツハイマー型認知症を代表とする認知症の大部分は、「アミロイドβ」や「タウ」などと呼ばれる特定のタンパク質が脳内に異常に蓄積し、脳神経が死滅することで発症すると見られている。そのため、この特定のタンパク質が脳に蓄積しないようにする薬剤の開発が行われ、有望な薬もあったが、効果が明らかにできず、これまでのところは開発中止が相次いでいる。
10.美しいもの
先生の1日は、日めくりカレンダーをめくることから始まるそうです。それから朝食、そのあとは理容室に行ったり、週に1度のデイサービスにも行くほか、リハビリの人が家に来てくいれたり、自分でマッサージを受けに行ったりすることもあるそうです。
午前中はいいけども午後になると疲れて、もやもやしてくるそうです。買い物のお金を払ったのに忘れてしまったり、意図していないことを喋って、後でしまったと思ったり、老いと認知症の両方で正直、情けなさやもどかしさを感じることも沢山あるそうです。
しかし、認知症になっても、嬉しい、悲しいといった喜怒哀楽の感情は最後まで残ると言われています。実際に認知症になってみて、その通りだと思ったそうです。たとえ症状が進んでも、できるだけ美しいものを観たり、聞いたり、味わったりして過ごしたいとおっしゃっています。
11.最後に
長谷川先生の印象に残った言葉に
「認知症の本質は、暮らしの障害なんだよ」
という言葉があります。まさにその通りだと思います。
また、薬の副作用についても、認知症薬の治験統括医師まで勤めた人が、そのような見解を持っていることに驚きました。認知症の第一人者が認知症になって感じることをとても丁寧に解説してくれている一冊になっていますので、認知症になった人やその家族、認知症に関わる全ての人に読んでもらいたい一冊になっています。